情操教育

子供の心に豊かな情操を育てるにはどうすればいいですか?

情操教育とは真・善・美を愛する心を育てること

 お教室での出来事です。いつもごあいさつが上手な女の子が、靴を脱ぐなり、ごあいさつも忘れ、目をキラキラさせながらエンゼルのお部屋に入ってきました。「せんせい……」彼女が両手でそっと差し出したのは、赤と白のまざった美しい椿の花です。「きれいねぇ。これどうしたの?」「みちでひろったの!」大発見の興奮と喜びに、その子の顔はピカピカに輝いています。「せんせいにあげる!」「いいの?ありがとう。じゃあお部屋に飾ってみんなにも見てもらいましょうね」水を入れた透明なガラスの器に椿の花を浮かべ、受付の机の上に置くと、女の子は嬉しそうに何度も何度もながめていました。
 お教室には手作りドレスが何着かあって、女の子たちの大のお気に入りです。不思議なもので、ややワイルドな元気いっぱいの女の子もドレスを着るとレディになります。言葉遣いも歩き方も、おままごとの手つきまでもすっかりお姫様です。
 あるとき、彼女たちに『白雪姫』のお話を読んであげました。「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだあれ?」「しらゆきひめ!」女の子たちが口々に答えます。私は、平均3才の彼女たちに聞いてみました。「どうして魔女じゃないのかな?魔女もお顔がきれいなのにね」「まじょは、わるいからダメなの。こわいかおなの!」「まじょはどくりんごなんだよ!」 どうやら、心の美醜と顔の美醜がつながっている感覚は、幼い彼女たちの中にもあるようです。
 さて、情操とは何でしょうか。広辞苑を調べるとこう書いてあります。「①芸術的、道徳的、宗教的感情。②物事に対する持続的な感情傾向。」何だか難しいですね。分かりやすく言えば、こういうことです。悪いことではなく、善いことや正しさを愛する心。醜いものではなく、美しいものを愛する心。ウソや偽りではなく、真実を愛し求める心。地獄に通じるような悪い思いや行いではなく、天国に通じるような美しい思いや行いを好む心。天使や、神さま仏さまという、崇高な存在に憧れる心。このような心の傾向性を豊かに育む教育を情操教育と言います。
 人は何を愛し何を好むかで、成長の方向性が決まっていきます。悪人に憧れれば悪人のようになっていくし、天使に憧れれば天使の心を持った人間になっていきます。また10歳くらいまでに心に沁み込んだ情操は、強い傾向性となってその人の生き方を左右していきます。だから幼少期の情操教育はとても大切なのです。
 子供たちの個性は実に様々でバラエティに豊んでいますが、どの子の心の中にも、もともとこうした「真・善・美」を愛する心、尊いものや優れたものを愛する心の種がちゃんとあってキラキラの輝きを発しています。そのことを信じて輝きを発見し、すくい取り、大切に育むことが情操教育の第一歩だと思います。